平成28年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 現代的学校教育問題への効果的な対応が可能な教員・臨床心理士の養成研究 ― 性の多様性に関する国際研究と価値観の変容研究 ―
- プロジェクトの期間
- 平成28年4月1日~平成31年3月31日
文部科学省の平成25年度調査によると学校では、暴力行為、いじめ、学級崩壊などの様々な問題が発生している。また、学級にしめる発達障害の児童生徒の割合は、文部科学省が2012年に行った全国調査の結果で発達障害の疑いのある児童生徒が約6.5%であり、学級担任はその対応の困難さを感じている。さらに学校現場で対応を求められているものとして、セクシュアル・マイノリティの児童生徒の存在がある。2010年4月に文部科学省は都道府県教育委員会へ「性同一性障害の児童・生徒に対する教育相談の徹底と本人の心情に配慮した対応を」という通知を出した。しかし、学校現場の教員は、荘島(2010)の調査では、中学校の10%、高等学校の48%がこれまでセクシュアル・マイノリティの生徒をかかわったことがあると報告しているが、「十分かかわれた」との認識がなかったり、知識不足を実感している教員も多い。そして、2015年4月には、性同一性障害に係る児童生徒だけでなく、児童生徒の心情に配慮した対応は、いわゆる「性的マイノリティ」とされる児童生徒全般に共通するものであることを明らかにした。発達障害と性別違和についての関連性の指摘されている。杉山(2005)は、青年期の同一性の混乱において,広汎性発達障害の子どもが独自の同一性の障害を呈することがあり,これがGDに発展することが少なからずあると述べている。
このように対応しなければならない問題が山積する学校現場において児童生徒の心理的支援を行っているのは、学校内では教育相談担当の教員、学校外からかかわっているスクールカウンセラー等である。教育相談担当教員は、学級担任を支え、必要があれば、専門家との連携を行っている。スクールカウンセラーは臨床心理学を学び、臨床心理士の資格を取得しているものが多い。本学校教育臨床連合講座では、児童生徒・保護者・教職員への心理的な支援が行える学校教員や、臨床心理学の専門家を養成することを主たる目的としている。そして本プロジェクトでは、現代的な様々な課題に効果的に対応できる専門家養成の在り方を模索する。こうした養成課程の効果研究は少なく、またどのように個人内の変化が起こったのかに着目した研究はほとんど見当たらない。
個人内の変化を起こすためには、個人が自身の現在の価値観・物の見方・考え方を疑うことから始めなければ、変容は起こらない。たとえば、発達障害の児童生徒の物の見方・考え方を理解するためには、彼らの物の見方・考え方・感覚についてよく知ることが重要である。セクシュアル・マイノリティの児童生徒の心理状態・困難さを理解するためには、これまでの自分自身の異性愛主義・性別への考え方に気づかなければならない。自分自身の価値観・物の見方・考え方の変容に関する研究は日本ではあまりなく、海外においては多文化・異文化に接することによる変容・発達に関する研究は多く存在する。本研究の参加する研究者は、日本において、学校現場の教員や心理臨床家を対象にワークショップ、研修会等をこれまで多く実践してきた。彼らの知識・技術を基礎とし、さらに内面の変容を目指したプログラムの開発が本プロジェクトの最終目標である。
そこで本研究プロジェクトでは、1.現在の国内外の心理臨床家の養成に関する研究を概観する。2.現在、日本の教員・心理職を目指す者がどのような価値観・物の見方・考え方を持っているのか現状を把握する。3.海外の価値観・物の見方・考え方を変容させる取り組みを調査・体験する。4.その取り組みの効果について日本国内での実践研究を行う。以上の4点を調査することを目的とする。
本プロジェクトの実施により、以下のような成果ができる。
・海外において実践・実証されてきた臨床心理学の専門家を養成する方法の日本への応用可能性を提示することができる。
・価値観・物の見方・考え方等の内面変容への効果が実証されている海外の実践の効果を検証する。
・その実践により国内での心理療法家の養成の効果を検証する。
・発達障害に理解のある教員を養成する。その教員は発達障害のある児童生徒だけでなく、他の教員や保護者への支援が可能となる。
・セクシュアル・マイノリティに理解のある教員を養成する。その教員はセクシュアル・マイノリティの当事者である児童生徒だけでなく、他の教員や保護者への支援が可能となる。 これらのことを通して、全体としては、学校現場において、現代の教育課題に効果的に対応できる臨床心理学の専門家を養成する包括的なプログラムを提示するこができる。
氏名 | 連合講座 | 大学 | 職名 | 役割分担(◎はチームリーダー) |
---|---|---|---|---|
(チームリーダー) 葛西 真記子 |
学校教育臨床 | 鳴門教育大学 | 教授 | ◎研究の総括とセクシュアル・マイノリティに関する研究 |
中津 郁子 | 学校教育臨床 | 鳴門教育大学 | 教授 | 教員に関する研究 |
吉井 健治 | 学校教育臨床 | 鳴門教育大学 | 教授 | 教員・スクールカウンセラーに関する研究 |
小倉 正義 | 学校教育臨床 | 鳴門教育大学 | 准教授 | 教員・スクールカウンセラーに関する研究 |
五十嵐 透子 | 学校教育臨床 | 上越教育大学 | 教授 | 臨床心理士の養成に関する研究 |
氏名 | 配属大学・連合講座・学年 | 主指導教員 | 役割分担 |
---|---|---|---|
戸口 太功耶 | 鳴門教育大学,学校教育臨床,3年 | 葛西 真記子 | 研究データの整理と分析 |
片桐 亮 | 上越教育大学,学校教育臨床,3年 | 五十嵐 透子 | 研究データの整理と分析 |
山西 健斗 | 鳴門教育大学,学校教育臨床,2年 | 小倉 正義 | 研究データの整理と分析 |
氏名 | 配属・職名 | 推薦教員 | 役割分担 |
---|---|---|---|
新見 員子 | 吉野川市立山川中学校・教頭 | 葛西 真記子 | 学校現場での実践とデータ収集 |
横畠 道彦 | 徳島県教育委員会人権教育課統括指導主事 | 葛西 真記子 | 教員の変容に関する研究 |
板東 郁美 | 鳴門市立撫養小学校・教諭 | 葛西 真記子 | 教員の変容に関する研究 |
谷川 健二 | 徳島県板野中学校・校長 | 葛西 真記子 | 学校現場での実践とデータの収集 |
枝川 京子 | 神戸芸術工科大学・非常勤 | 葛西 真記子 | 教員の変容に関する研究 |
辻河 昌登 | The William Alanson White Institute of Psychiatry,Psychoanal&Psycholgy 研究員 | 葛西 真記子 | 臨床心理士の養成に関する研究 |
※職名は平成28年4月1日現在による。
・研究成果報告書として「LGBTQ+の児童・生徒・学生への支援-教育現場をセーフ・ゾーンにするために-」(誠信書房)が出版されました。