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project: U(H29~R元) 東アジアにおける法を活用した規範教育の構築   -市民性と人権感覚に支えられた規範意識の醸成-

project: U(H29~R元) 東アジアにおける法を活用した規範教育の構築   -市民性と人権感覚に支えられた規範意識の醸成-

  

平成29年度採択プロジェクト

プロジェクトの名称
東アジアにおける法を活用した規範教育の構築 -市民性と人権感覚に支えられた規範意識の醸成-
プロジェクトの期間
平成29年4月1日~平成32年3月31日
国際シンポジウム
<華東師範大学での法治教育のシンポジウム案内> <華東師範大学での法治教育のシンポジウム案内2> <上海シンポジウムと授業参観> <上海シンポジウムと授業参観2> <上海シンポジウムと授業参観3>

プロジェクトの概要

Ⅰ 本プロジェクトの目的

本研究の目的は,第一に,我が国の児童生徒の規範意識を醸成する教育について,人文科学や社会科学をもとにした基礎的な「市民性」の理解,規範教育に関する教育プログラムの実施状況について,海外と多面的・多角的に比較研究することで,東アジアの児童生徒の人権課題に対する教育プログラムを理論的に構築することである。第二に,規範教育に関わる各種の関係機関と協働し,効果的な教員養成や教員研修のプログラムを開発することにある。第三に,実践的研究により効果評価を行い,その有効性を確認することで,児童生徒の法的な規範意識を育成することに深く寄与することを目指すものである。

Ⅱ 本プロジェクトの学問的背景

(1)日本における市民性と人権意識の醸成を重視した規範教育

平成14年3月に閣議決定された「人権教育・啓発に関する基本計画」で指摘されているように,今日においても生命・身体の安全に関わる事象や不当な差別など様々な人権問題が生じている。次代を担う幼児を含む児童・生徒に関しては,各種の統計・調査の結果に示されているように,いじめや暴力など人権に関わる問題が後を絶たない状況にある。こうしたなかで,児童生徒が虐待などの人権侵害を受ける事態も深刻化している。「人権教育・啓発に関する基本計画」は,様々な人権問題が生じている背景として,人々の中に見られる「同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在」,社会の急激な変化などとともに,「より根本的には,人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に十分に定着していないこと」をその要因として挙げている。日本では,「児童の権利に関する条約」をはじめ人権関連の諸条約を締結し,全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で人権に関する各般の施策を講じてきた。また,教育基本法に基づき,人格の完成を目指し,平和的な国家及び社会の形成者の育成を期する教育が,家庭・学校・地域のあらゆる場において推進されてきた。このような人権尊重社会の実現を目指す施策や教育の推進は,「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」をはじめとして一定の成果を上げてきたが,学校教育における法的な規範意識に基づいた市民社会へ参画する資質・技能の育成はいまだ充分なものとはなっていない。 日本における「法を活用した教育」を対象とした理論研究や実践研究では,第一に,江口勇治らによる法教育(法関連教育)をあげることができる。江口は,アメリカの法教育カリキュラムやプログラムを援用し,法的概念である「権力」「正義」「自由」「平等」など,法やルールの背景にある価値観や司法制度の機能・意義を考えるとともに,刑事裁判判決書の教材作成,模擬裁判を通して法的思考力や法的判断力などの育成を図る。江口らの研究は,法務省に設置された法教育研究会(2003年)の報告書(2004年)に反映され,学習指導要領(文科省2008年)において社会科の内容に組み入れられ,弁護士会,法曹関係者との連携による授業実践も報告されている。近年,「法と教育学会」が設立された。(2010年)ここでは,江口のほかに,磯山恭子,渡邊弘,大杉昭英,橋本康弘,二階堂年惠,小林秀行らの成果を確認することができる。 第二に,海外の市民教育,公民学習の研究をもとに,具体的事例を取り扱う中で法的な判断を取り入れた研究をあげることができる。池野範男は,「具体的な懸案事項に関して意見を形成し社会的な意思決定を行い,自律的判断と合理的共同決定の能力や技能を育成するとともに,意見形成や意思決定の方法,およびそのルールの根拠となる基準,規範や価値の共有化」の必要性を指摘する。ほかにも,桑原敏典,中原朋生,井上奈穂,橋本康弘,溝口和宏,吉村功太郎らの研究がある。 第三に,法と法の適用による司法判断,判決内容の活用を中心とした「法を活用した学習」するものとして,福田喜彦,新福悦郎,山元研二,蜂須賀洋一などがある。これらの研究の背景には,梅野正信による判決書を教材化し,判決書に示される法的見方・考え方を人権教育や市民性育成教育に役立てる研究・実践の提起・推進がある。梅野は,判決書教材を通して「公的で良識的な判断を一つ一つ学び,判断の一つ一つが行動の規範として生かされるような学習」の必要性を唱え,判決書にある裁判所の判断を基に,教師や児童・生徒の法的思考力や判断力,人権や命を守る市民性の育成を目指してきた。梅野は,体罰やいじめによる自殺などの「学校の中で失われた人権」,セクシュアルハラスメントや水俣病などの「社会のなかで侵害された人権」,戦後補償などの「国境でとどめられた人権」などの主題を中心に,判決書教材の開発を進めてきた。 第四に,近年の主権者教育の取り組み,新科目と目される「公共」を念頭において,模擬裁判等の参加型学習の形をとった「法を活用した学習」を提案するものとして,竹澤伸一,船山泰範がある。

(2)中国における市民性と人権意識の醸成を重視した規範教育

東アジアにおいては,日本及び日本と密接な関係にある中国,韓国,台湾において,近年,「法を活用した学習」が積極的に研究や授業実践が取り組まれてきた。現在,法治教育に関して最も大きな転換点にあるのが中国の施策である。中国では,2014年10月23日「法による治国の全面的推進における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」が公布された後,小中高に向けて法治教育の「読本」が相次ぎ出版された。2015年始め,教育部は「青少年法治教育大綱」の作成と教育課程に法治教育の導入方法の検討もスタートし,2016年3月か4月に,公布される予定である。品徳―社会系教科の教科書についても,法治教育に関する内容の充実を図る修正がまもなく始まる。2014年12月内モンゴル法制研究センターはもっとも早く法治教育読本を編纂し,中国人民大学出版社から出版した。2015年3月,人民教育出版社「法治教育」,2015年7月,福建人民出版社「法治教育読本」が相次ぎ出版された。2015年末までに,「青少年法治教育大綱」(案)と「学校における法治知識課程の設置を実施する方法(案)」が多様な部門と専門家によって検討されてきた。そして,2016年3月か4月に公布予定である。法治教育は品徳系教科をはじめ,学校全体の教育活動と結合して行なうと同時に,法治教育を施す専門の科目を設置することが決められた。義務教育段階において,内容は基礎的法律常識,法制度,法治原則,法治理念を全面的にカバーするようにと要求されている。教育部の措置は,道徳系教科(品徳と生活,品徳と社会,思想品徳,思想政治)を「道徳と法治」に改称し,移行期に,2016年の下半年「道徳と法治」という「専冊」の作成と他の冊の修正を完成,審査部門に提出し,2017年の秋に小中高の各1年生から新しい教科書を採用する計画となっている。その措置によって,小学校の「品徳と社会」教科書の8冊の中から,中学校の「思想品徳」の6冊から,それぞれ1冊を法治教育の「専冊」とするようになる。 「品徳と社会」と「思想品徳」の課程基準修正版が2011年に公布され,その新しい課程基準に準じる教科書の修正版が2014年12月審査に提出されていた。だが,その審査結果はいまだに明らかにされていない。1月の教科書主編会議において,教科書編纂者に「審査に提出した教科書に法治教育内容を取り入れ,1冊の法治教育『専冊』を作成するように全体の構成を修正して,再び提出するように」と要求された。高校の課程基準は現在修正中で,2016年内に修正・公布される「道徳と法治課程基準」に準じて教科書の作成が始まる。そして,2017年の秋より,1学年から使用される予定である。以上の動向により,中国の法治教育教科書は2017年の秋に発行される見込みである。 このように中国の法治教育は,パイロット的段階にあるが,小学校から高等学校までの体系的なテキストを作成中であり,法的な規範意識を育成するものとして今後の展開が注目されるものである。

(3)韓国における市民性と人権意識の醸成を重視した規範教育

韓国では,2007年の第7次教育課程以後,数次にわたる改訂を経て,2012年の改訂社会科教育課程に至っている。韓国の社会科で追求する人間像は,「弘益人間の理念の下ですべての国民に人格を育成し,自主的生活能力と民主市民として必要な資質を備えるようにし,人間らしい生き方を営むようにして,民主国家の発展と人類共栄の理想を実現するのに尽くすようにすること」と明示されている。こうした理念に合わせて,改訂された社会科の学習内容で規範教育と関わる部分をみてみると,社会科の目標は,「社会生活に必要な知識と機能を学び,これをもとに社会現象を正しく認識して,民主社会の構成員に要求される価値と態度を持つことによって民主市民としての資質を備えるようにする教科」と規定されている。社会科で育成しようとする民主市民は,社会生活を営むのに必要な知識をもとに,「人権尊重」「寛容と妥協の精神」「社会正義の実現」「共同体意識」「参加と責任意識」などの民主的価値と態度をもった子どもたちである。韓国の社会科教育課程では,第3学年及び第4学年と第5学年及び第6学年がそれぞれ一つのまとまりとなった形で学習内容が示されている。特に,「人権」を視点にして,日韓の社会科のカリキュラムの目標・内容・方法を比較してみると,日本の社会科教育との共通点が数多くみられる。例えば,日本の第3・4学年で取り扱われている地域に関する学習は,韓国のカリキュラムにおいても同様に取り上げられている。また,第5・6学年で取り扱われている国土・歴史・政治などに関する学習も韓国と日本で共通している。しかし,韓国と日本の社会科のカリキュラム上の位置づけで異なっている点は,多文化化や性役割などに関する内容が第4学年で提示されている点である。日本では,第3・4学年の社会科学習指導要領のなかでは,こうした内容に対する提示がないため,日韓で共通したカリキュラムを検討する場合,多文化化や性役割に関する内容をどのように教育課程で位置づけるかが検討しなければならない問題である。

(4)台湾における市民性と人権意識の醸成を重視した規範教育

台湾における「法を活用した学習」としては,2004年より学校で「品德教育促進方案」を推進してきた。2014年-2018年を品德教育深化段階と定め,"學校教育から家庭教育および社會教育に拡め,品德,教養あり,感謝を知り,法治を理解,人權を尊重する現代公民素養をもつ國民を育成する"。 教育部2016年度の政策実施方針の中,第一と挙げられた方針でも「質高く,かつ國際視野もちの世界公民」との文がある。台湾では,2014年に公布され,2018年に実施予定の『12年教育課程』の「二 課程目標」に公民としての責任を育成する視点が明示されている。特に,注目されるのが,『12年教育課程』に示されている「四,涵育公民責任 厚植民主素養,法治觀念,人權理念,道德勇氣,社區/部落意識,國家認同與國際理解,並學會自我負責。進而尊重多元文化與族群差異,追求社會正義;並深化地球公民愛護自然,珍愛生命,惜取資源的關懷心與行動力,積極致力於生態永續,文化發展等生生不息的共好理想。」の部分である。ここでは,公民としての責任を育成するために,「法治観念」「人権理念」などの概念が登場している。また,『12年教育課程』の「七 実施要点」には,「(二)課程設計與發展 2.課程設計應適切融入性別平等,人權,環境,海洋,品德,生命,法治,科技,資訊,能源,安全,防災,家庭教育,生涯規劃,多元文化,閱讀素養,戶外教育,國際教育,原住民族教育等議題,必要時由學校於校訂課程中進行規劃。」と記載されており,「安全」「防災」などの新たな視点が明示されている。こうした『12年教育課程』に見られるキーワードを抽出すると,「法治観念」「人権理念」などの概念が日本・中国・韓国と共通しており,これらの概念を育成するために,学校教育プログラムを充実させることが期待されている。台湾でもすでに台北教育大学が中心となって,学生向けには法治教育に関するパンフレットやプログラムが作成されており,今後の状況を把握していくことが必要となっている。

Ⅲ 本プロジェクトの到達目標

本研究では,上記の学問的背景を基盤として,兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科を構成する兵庫教育大学,鳴門教育大学,岡山大学,上越教育大学に在籍する研究者の学際的・国際的な共同研究を行うものである。 本研究で研究協力者としている海外の研究者は,いずれも各国で規範教育に関わっており,それぞれの知見からすでに本研究プロジェクトへの協力体制を構築している。また,それぞれが専門としている研究分野も歴史的アプローチ,評価的アプローチ,カリキュラム的アプローチなど研究手法が多様であり,対象としている学校種も幼稚園から高等学校・大学に至るまで多岐に及んでいる。 こうした研究体制によって,教育プログラムの内容を関連する周辺領域・教科をも包含して充実させるとともに,幼稚園・小学校・中学校・高等学校の各種段階の教育プログラムを体系的に構築することが本プロジェクトの到達目標である。

期待される成果

プロジェクトの実施により期待される成果

現在,我が国におけるシティズンシップ教育は多様な側面から研究が進められているが,本プロジェクトには,以下のような特色があり,学術的かつ社会的な意義が期待される。

(1)東アジアの児童生徒の人権課題に対する教育プログラムを理論的に構築

東アジアの児童生徒の人権課題に対しては,道徳教育・倫理教育・社会科教育・家庭科教育など多様な領域・教科からアプローチがなされている。しかし,これまでの研究においては,本研究が対象とする日本・中国・韓国・台湾など,東アジアの国々がどのようなカリキュラムや教科書のなかで児童生徒の人権課題を取り扱っていたのかという個別の問題意識に基づいた研究に止まっていた。本研究では,こうした個別の研究の枠組みを超えて,「法的な規範意識」の形成という共通の視点から東アジアの人権課題を捉えて,幼稚園・小学校・中学校・高等学校・大学に至るまでの体系的なカリキュラムの構築を試みる。だが,我が国においてもこうした体系的なカリキュラムの構築は充分なものではない。なぜなら,人権課題は,広汎な領域・教科に渉っているために,どのような視点から人権課題に取り組むのか学校種や教師によってさまざまに捉えられているからである。本研究ではこうした状況を踏まえて,「法的な規範意識」を軸にして,人権課題に対する教育プログラムを理論的に提案する。日本でも「法的な規範意識」を育成する授業は「シティズンシップ教育」の名のもとに,教育政治学や社会科教育の領域で活発に議論されてきた。しかし,「法的な規範意識」を関連するほかの領域・教科との連携をも視野にいれた横断的な研究は今後の課題となっている。本研究では,申請者たちがこれまでに取り組んできた「判決書教材」を活用した授業実践研究を基礎として,新たな学校教育プログラムを理論的に検討する。現在,東アジアのなかでも最も体系的に法的な規範意識を育成するためのプログラムの開発を進めているのが中国である。中国では,新たな施策のもとで「法治教育」のテキストを作成し,小学校から高等学校までの体系的な教育内容を示している。児童生徒の法的な規範意識を育成する上で,各国の法体系を理解することは,前提となる基礎的知識である。中国の法治教育のテキストは,場面状況・事例分析・学習活動の3つで構成されているが,こうした内容構成は,判例理解・関係法規・教材吟味の判決書教材を学習していくプロセスと共通点がある。本研究では,日中との国際比較研究を手がかりに,韓国や台湾でもカリキュラムや教科書の調査を行い,東アジアの人権課題に対応できる「法的な規範意識」を育成するプログラムを開発する。

(2)「法的な規範意識」を育成する効果的な教員養成や教員研修のプログラムを開発

本研究では,児童生徒に「法的な規範意識」を育成するためには,教員養成や教員研修のレベルにおいて教師が「法的な規範意識」を資質として備えている必要があるとの理論的仮説に基づいて,教員養成や教員研修のプログラムの開発を検討する。申請者たちは,本研究の基礎となる「判決書教材」を活用して,教員養成や教員研修のプログラムを開発・実践してきたが,対象とする内容が限定的であり,東アジアでの汎用性を意識したものとはなっていなかった。しかし,教員養成や教員研修において,高度な国際化が要求される中で,東アジアの教師達が相互に授業を公開し,批評できるためには,共通の基盤となる授業実践の蓄積が不可欠である。本研究で対象とする「法的な規範意識」を軸とする授業実践は,こうした授業実践の蓄積を可能とするものであると同時に,教師と児童生徒が相互に理解を深める上でも重要なものとなる。しかし,既存の授業実践においては,国際比較研究において,言語や価値観の相違が大きな壁となっていた。申請者たちは,中国・韓国・台湾の教育プログラムに精通し,かつ,日本語や日本の教育プログラムにも詳しい研究協力者を得ることで,こうした相違点をお互いに議論し,新たな教育プログラムを開発することに意欲的に取り組んできている。 こうした研究の蓄積を生かして,東アジアにおいて,「法的な規範意識」を育成する効果的な教員養成や教員研修のプログラムの開発を促進する。申請者たちは,各国の規範教育に関する関係機関や各教科のカリキュラムや教科書の作成にも関わっており,こうした知見を教員養成や教員研修のプログラムの開発に生かすことが可能である。具体的には,「法的な規範意識」を育成する教育プログラムの視点としては,「いじめ」「家庭内暴力」「セクシャルハラスメント」「インターネット犯罪」「環境問題」などの事例を教師や児童生徒に学習させる学校教育プログラムの開発を目指す予定である。 特に,対象の事例とする社会的事象の法的根拠を明らかにすることで,その権利のもとになる各種法令はどのようなものがあるのか,それはどのような規定か,それぞれの場面は裁判でどのような法的根拠に基づいて裁かれているのかなどを体系的に学ぶプログラムの開発を検討する。

(3)実践的研究により「法的な規範意識」の授業評価と有効性を検証

3つ目の期待される成果は,「法的な規範意識」を育成するための授業モデルの提示である。 申請者たちは,社会科教育を中心に授業実践を分析するための新たな評価方法についての研究を進めている。「法的な規範意識」を育成する授業においては,従来のように,教師が教材として提示する事例をもとに,児童生徒が相互に議論するアクティブ・ラーニングを展開することが求められる。そのときに,児童生徒が事例から何をその判断基準として考察したのかが問われるが,本研究では,児童生徒の判断基準となる根拠を,日本・中国・韓国・台湾など東アジア各国の法体系に求めている。児童生徒は,法的な根拠に基づいて,自らの意見を論理的に表現することが授業の中で必要となる。例えば,「いじめ」「家庭内暴力」「セクシャルハラスメント」「インターネット犯罪」「環境問題」などの事例を児童生徒自身が,法的な根拠をもとに,自らの判断を吟味し,「法的な規範意識」を形成していくのである。こうした学習プロセスは,申請者たちがこれまでに取り組んできた「判決書教材」を活用した授業の中で行ってきた「判例理解」「関係法規」「教材吟味」の3つの学習過程を生かしたものになると想定されるが,こうした学習プロセスによる授業がどのように児童生徒に効果的なのかについて,授業評価の検証は充分なものではなかった。本研究においては,授業評価研究の専門家にも研究協力を仰ぎながら,実践的な研究の視点から「法的な規範意識」を育成する授業の評価とその有効性についての検証を行う。現在,中国においては,「法治教育」のテキストに基づく授業実践が計画中であり,いくつかの学校で実践化が進められている。また,日韓との比較については,「判決書教材」を活用した相互の授業実践が既に行われているが,新たな教材開発が必要となっている。台湾との比較はこれまでに事例がないために,日本・中国・韓国との相互比較のなかで検討可能な事例を開発し,実践する必要がある。本研究においては,博士課程の大学院生や現職教員との協力体制も整えており,日本・中国・韓国・台湾での相互の授業実践の比較によって,「法的な規範意識」を育成する授業の開発と検証を進め,東アジアの児童生徒に資するカリキュラムや教科書の開発と授業実践の双方から本プロジェクトの有効性について検証する。それによって,次世代の教育を担う博士課程の大学院生や現職教員が連携しながら,新たな授業モデルを創出し,東アジアの児童生徒に「法的な規範意識」を育成することのできる授業力を育むことができる資質と能力を提供することが可能となる。 本プロジェクトは,理論的・実践的なレベルで「法的な規範意識」を東アジアの児童生徒や教師に育成することができるという点で,これからの学校教育プログラムの新たな側面を担うものと期待できる。

チーム構成員

プロジェクトに参加する研究科教員

氏名 連合講座 大学 職名 役割分担(◎はチームリーダー)
(チームリーダー) 梅野 正信 学校教育方法 上越教育大学 副学長(理事) ◎プロジェクト全体の総括
林  泰成 先端課題実践開発 上越教育大学 副学長 比較研究(道徳教育関係)
佐古  秀一 学校教育方法 鳴門教育大学 副学長・理事 比較研究(学校経営関係)
森廣 浩一郎 学校教育方法 兵庫教育大学 教授 比較研究(ネット関係),授業分析
桑原 敏典 社会系教育 岡山大学 教授 比較研究(公民教育関係)
井上 奈穂 社会系教育 鳴門教育大学 准教授 欧米における法を活用した規範学習の調査・構想・分析
福田 喜彦 社会系教育 兵庫教育大学 准教授 東アジアにおける法を活用した規範教育の調査・構想・分析

プロジェクト協力者

氏名 大学 職名 役割分担
中平 一義 上越教育大学 准教授 日本における法を活用した規範教育の調査
河野 麻沙美 上越教育大学 准教授 授業分析研究
速水 多佳子 鳴門教育大学 准教授 比較研究(家庭科教育関係)
蜂須賀 洋一 上越教育大学 講師 判例研究(小学校関係)

プロジェクトに参加する院生

氏名 配属大学・連合講座・学年 主指導教員 役割分担
原田 聡 上越教育大学,学校教育方法,3年 梅野 正信 授業実践研究
梶原 正史 滋賀大学,学校教育方法,3年 大野 裕己 授業実践研究
王  佳穎 上越教育大学,学校教育方法,3年 梅野 正信 授業実践研究
横川 和成 岡山大学,社会系教育,2年 桑原 敏典 授業実践研究

プロジェクト研究員

授業実践研究(人権教育関係)
氏名 配属・職名 推薦教員 役割分担
沈 暁敏 華東師範大学・教授 梅野 正信 中国における法を活用した規範教育の調査及び授業研究
翁 麗芳 台北師範大学・教授 梅野 正信 台湾における法を活用した規範教育の調査及び授業研究
李 貞姫 光州教育大学・副教授 井上 奈穂 韓国における法を活用した規範教育の調査及び授業研究
溝口 和宏 鹿児島大学・教授 桑原 敏典 比較研究(市民性教育関係)
蔡 秋英 広島県立戸手高等学校・教諭 井上 奈穂 中国における社会科関係科目の調査・比較研究
岡田 了祐 お茶の水女子大学・全学教育システム改革推進本部・講師 梅野 正信 授業分析
新福 悦郎 石巻専修大学・准教授 梅野 正信 判例研究(中学校・高校関係)
佐藤 章浩 鳴門教育大学附属小学校・教諭 井上 奈穂 授業実践研究(社会科教育関係)
長島 利行 茨城県教育庁 林 泰成 授業実践研究
井上 昌善 愛媛大学・講師 桑原 敏典 授業実践(社会科教育関係)に関する研究
※職名は平成31年4月1日現在による。

研究成果報告


・研究成果報告書として「東アジアにおける法規範教育の構築-市民性と人権感覚に支えられた規範意識の醸成-」(風間書房)が出版されました。

研究成果の概要(PDF)