令和3年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 表現及び鑑賞学習の観察・記述・省察のアクションリサーチ -授業研究,教員養成,地域連携の連環による学びの研究プロジェクト-
- プロジェクトの期間
- 令和3年4月1日~令和6年3月31日
プロジェクトの概要
プロジェクト研究の概要
A.問題の所在と目的本研究は,保育内容表現造形,図画工作科,美術科における,①幼児・児童・生徒の表現と鑑賞学習の研究開発と授業実践,②学習場面の参与観察と映像記録に基づく記述分析,③授業や学習の過程への省察について,学びの臨床事例に基づくアクションリサーチによる教育研究の方法を提示することを目的としている。特に,実践と理論との関係の把握が困難な表現と鑑賞の過程を,教育実践の場において,実践的・理論的に共有可能にすることを目的とする。
保育内容表現造形,図画工作科及び美術科の授業研究,教員養成教育,美術館及びアーティスト等との地域連携プロジェクトの過程は,学習者(幼児・児童・生徒),教師,学生・院生,研究者,作家,美術館・教育委員会,地域の連携協働機関のそれぞれの「現場の諸問題」に対する主体的参画(思考・判断・表現)をともなっている。文化・社会・自己の実現を包括的に含み持つその実践過程は,「行為の中にある知」や「人間性の開花」,他者や自己の独自性と尊厳への気づきと尊重による民主主義や集団形成の在り方(「参画と民主主義」)にも寄与するものである。
幼少時からの造形表現と鑑賞活動が,将来の生活における芸術文化への参加と享受につながる資質・能力の発現と形成であるためには,個人の資質や能力の独自性の発現のみならず,社会と文化を形成するつなぎ目や他者との共感的実践の媒体や支え(紐帯)となることで,個人の社会的で文化的なアイデンティ形成に寄与できるものとなる。普通教育における人間形成の視座として不可欠である。本研究プロジェクトは,普通教育における芸術文化活動の独自性に立ち,事例分析を通したアクションリサーチの方法(Figure.1)により,授業研究,教員養成,地域連携研究の全体を,連環的プロジェクトとして進める。
B.研究の対象
本研究が共通の対象とする実践のフィールドは,幼児・児童・生徒,学生・院生,教師,研究者,アーティスト,教育行政関係者,美術館関係者,地域住民等の,造形的な表現及び鑑賞を通した学びの臨床場面の創造・把握・省察における,子ども,教師,調査研究を進める院生や研究者の変容である。学びの臨床場面は参加者に応じた異なる意味や働きをもつ実践過程のネットワークとその経験として「立ち現れ発展する形態」を形づくると位置づけている。
(a)学びの実践と授業研究では,学校等での造形遊び,対話による鑑賞,アートグラフ等による国際共同授業研究,学校・美術館・大学による地域連携による参画型協働学習,学びの過程と授業の省察,以上が主な対象となる。
(b)学びの臨床場面を参与観察して記録し,記録を記述分析して考察し,省察する方法は,造形芸術の表現と鑑賞において,もの・こと・人へと働きかける相互作用的な創造行為や表現行為を通してつくられる色やかたち,タッチ等の造形的記号(シーニュ)の生成と視覚的イメージの特性から,映像機器を用いた参与観察,映像を媒介としたビデオカンファレンス,語り・発話・記号・画像等による記述分析考察,観察場面映像とを用いたデータセッション(省察)等が主な対象となる。
(a)(b)を通じて,造形的シーニュの生成とそれらを通した語り(対話)・経験・行為によりたち現れ変容していくアクションリサーチの各項目(Figure.1),シーニュが媒介する主体的行為性(agency)により,子供,教師,学生,作家,研究者等の異なる資質や能力の間に,それぞれを活性化させるネットワークを形成することで,互恵的に相互変容する「学びの共同体」の多元的構造が明らかになる。