理数系教科マネジメントコース 庭瀬敬右教授が,金・銀・銅メダルの順位の新たな指標となりえる 低温電子線照射下でのパターン形成に関するレビュー論文を発表しました
オリンピックのメダルは,1位から3位まで,金・銀・銅の順になっています。その理由として,歴史的観点やその希少性,見かけの美しさ,加工性,安定性など,いくつかの指標が挙げられています。庭瀬教授は,ドイツ・マックスプランク研究所との共同研究でマイナス170℃程度の低温で電子線を金薄膜に照射した場合,世界最小サイズである原子数個分の幅の規則的な溝のパターンが電子線の出射面側に"あぶりだし"のように現れることを発見しています(図1)。また,ナノサイズの深い穴が形成されることも見出しています(図2)。この試料を室温に戻すと,表面の原子が動いて溶けたような状態になり,ナノサイズの深い穴は表面張力によって球状の空洞に変化します。
今回,銀や銅,ニッケル,鉄に関して同様の実験を行った場合に形成されるナノ構造のパターンを比較しました。電子線照射によって現れるパターンは,その規則性と微細化の観点では,金が最も優れ,その次に銀,銅の順になることが示されました(図3)。鉄では,規則的なパターンが現れませんでした。また,金表面の原子が活発に動き始める温度は約マイナス30℃であることを明らかにしました。
この表面パターンの形成は,電子線照射によって生成された表面空孔の自己組織化の観点から議論されています。生命誕生の鍵と言われている自己組織化現象が,このような粒子線照射下での単純な系で起こったことは,無生物から生物が生まれるプロセスを考える上でも興味深い現象であると言えます。
本研究成果は,『量子ビーム科学(QuBS)』の特別号に掲載されました。
QuBS | Free Full-Text | Self-Organized Nanostructures Generated on Metal Surfaces under Electron Irradiation (mdpi.com)
https://www.mdpi.com/2412-382X/5/1/4